春の海、夜明け間近の朝靄の中、港を発つ漁船の群れを見送り、まずめ時を狙って、釣り人達が防波堤を闊歩する。

　磯の香り、潮の流れ、透き通る空に絵の具を垂らしたような朝焼け。やがて仕掛けを投げ込む錘の着水音だけがこだまし、水面に拡がる波紋。
　
　春告魚がシーズンの到来を告げる。久方振りの潮騒のメロディに耳を澄ませば、夢心を誘う確かな手ごたえは大物の予感。

　少々浮かれ気分の釣り日和。

　 風薫る季節、桜舞い散る海岸通り。瞳を閉じて深く深呼吸。まぶたに
焼きついた幾多の場面。波打ち際の甘酸っぱい恋は、遠い過去の如し。
振り返ればまるで映画の主人公。 ひとコマひとコマが愛しき日々。
　
　誰かが僕に教えてくれた。海はすべてを忘れさせてくれると・・・。
　寄せては返す波に遠い記憶を還してあげよう。
　今はただ、ゆらゆらと優しい光に身を委ね、涙の行方を見送ろう。
　
　そんな一時の感傷を、想い出という名の歳時記に刻みたい。



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